(追記)20120430 安藤裕子LIVE2012「勘違い」@東京国際フォーラム

行ってきました。
なんというか、魂を吸われ、投げ返され、吸われ、投げ返され。どっちが消耗するのが先か?!という勝負をしているような錯覚を覚える、観る方にも”姿勢”を要求するライブでした。

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私は、安藤裕子を「Merry Andrew」でブレイクした時から聞き続けているけど、ライブへの参加の回数しかり、どれくらい曲に没入して聴いてきたか?といったら、正直素人であることは否めない。今回のライブも”佐野康夫のドラムを求めて”チケットを取ってもらって一緒に来た。
それを含めて、以下が感想。

序盤は佐野康夫オンステージ。あの白いボディのスネアがシグネチャーモデルなのかな?やや乾いて締りのある突き抜けるスネアの一発一発で聞かせる。特にアルバムでも目立つ1曲である「エルロイ」のドラムとキーボードの駆け引きは怖いくらい。真っ赤な照明効果も相まって、”おそろしい”、まさに”モンスター”ソングだと感じさせる。
「エルロイ」ののち、「み空」「のうぜんかつら」と旧曲を並べる。この2曲に関しては、ドラムを全面に出す力強い曲というわけでもない中で、佐野康夫がとにかく前に前に来るので正直面食らった。「み空」の単調な4つ打ちを康夫様が…!この4つ打ちの神っぷりに堕ちたときから康夫教…いまCD音源聴いてますが、あきらかに音量が違うww 「のうぜんかつら」に関してはスネアの音の違いからかもはや違う曲と言いたくなるくらい、メロウな中にがっついてくるリズムのうねりがあり、無理やり美しく表現すれば”バラのとげ?”。私が佐野康夫を前にしてこのアレンジワークを「否」というわけもなく、もうすべて康夫様の思い通りに破壊再構築していただいて結構なんですが、ロングツアーに帯同するなどバンドとしての一体感が増せば別の解があるような気もしないでもなかったです。

その後、暗転してスネアを付け替えて…ん、おおおお!康夫様の前にマイク!!で「すずむし」。うおおおお、康夫様に「とぅりゃとぅりゃ」歌わせておる!これは凄い!!

スネア付け替えによりドラムの音の締まり、通りがすこし引込み(専門家でないので表現が適切でないと思うけど、keyが落ちたようなイメージ)、曲はメロウな方向にずんずんと。ちょっと私も眠りを誘われたりしつつ。

ファンブログなどを拝見すると序盤から歌詞が飛ぶなども若干あったようだけど、私がみている中ではMCを重ねるほど、安藤裕子の調子が崩れていったように思えた。まずは昨年のライブツアーを途中キャンセルしたことへの謝罪、それに対するお客さんのレスポンス、またかなりぼかした表現ではあったけど自分が命を産み落としたことによる心境・環境の変化についても少し語っていた。
「お誕生日の夜に」の前にお客さんと佐野康夫の誕生日を祝った。歌の最後の英文詩で「September 云々…」と言っていたので、おそらく出産についての詩だったんだろうなと思いました。

歌うのを途中でやめてしまった「飛翔」で、はじめてライブに”異状”があることが分かりました。ちょっと泣いてて歌えないなんて他のアーティストでもよくあることだし。それこそCoccoとかで慣れていたので、そういうこともあるかな、くらいだったのだけど。最後、歌えないまま、そしてオーディエンスがそれを補う歌声を上げることができるわけでもなく、彼女はマイクを置いて走って消えてしまいました。
楽器交換をしているバンドメンバーのもとにスタッフが現れ、バンドメンバーも捌けて、ライブが中断されたことに気付かされるオーディエンス。アンコールを求める手拍子は長く、長く、長く。急かすようでもあり、ねえやんの無事を祈るようでもあり、正直、両方の人がいたのだと思います。この幕切れで納得しないと思って手を叩いていた人もいるだろうし。

照明が再開を告げ、ステージの上に現れたのは、安藤裕子とキーボードの山本隆二の二人だけ。そこで、ライブは完遂されないと理解した。
最後の曲は「地平線まで」。これも完全な歌唱ではなくて、途中、とだえとだえの歌。私も含め、シンガロングして補えないのがつらかった。。。

言葉なく深々とおじぎをしてステージから姿を消し、客電が付いたとき会場を包んだ感情って「落胆」が最初だったんじゃないかな。
そう思ったよ。いろいろ整理して初めて、「体調治してから歌って欲しい」とか、彼女を気遣う気持ちに至れた、私は。
ただ、用意されていたとされる「鬼」や「歩く」が聴けなかったことに対する残念さみたいなものはない。
昨日は歌うべき日でなかったのだから。歌えない歌でも無理して歌うのがプロ、という意識でライブに行ってるわけじゃないので。あるクオリティに達し、金銭的にペイしないなら芸術は外に出すものではないし、リスク取って止めなければいけないこともあるだろうし、そのリスク取れる(≒結果的に儲かる)からプロ活動ができているのだと思うので。

だから、完走できなかった彼女を責める気持ちにもなれず、むしろ、身につまされることが多々あり、私も走りきれないものを両脇に抱えているかな?そうではないかな?それが抱えきれるか・きれないか、判断は客観的かな?100人いて、100人が「出来るはず」と言った事を自分ができなかったとき、自分はどんな行動をするかな?なんて、テツガクに落ちてゆきました。

会場をでると正面玄関前に救急車がアイドリングしていて。でもその周りが騒動になっているわけでもなく、真相はわからない。
ただ表現者本人の声がないまま、新しいライブが発表され、その手前次の大阪公演も迫っていて、彼女が”本当になんでもない”のか、”無理して大阪頑張ります”なのか、”ごめんなさい、できません”なのか、答えが欲しいなと思う。ただそれは、私の安心のためだけであってさ、彼女のためでも何でもなくて、自己中なファン心理なんだけど。

そうなんだよなぁ。芸術家は、ファン心理と完全に一致することなんて無い。芸術家が内に秘め抱えている事情をファン心理が完全理解して歩み寄ることなんでできない。逆の、芸術家の側が努力して歩み寄ることは、たぶん、あるんだろうけど、私はそういうマーケターみたいな芸術家を求めているわけではないので、彼女自身の言葉を待つしかないなあ。blogのようなやんわりしたステップで、みんなに発信して欲しいなあ。

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5/6追記

佐野康夫シグネチャーモデルのスネアですが、安藤裕子ライブでは中盤から使われた”メロウ”な音(中低域の)のほうのようですね。胴のカラーリングはデフォルトでは黒。以下、康夫様のハスキーボイスによる解説と演奏動画です。
アルバム「勘違い」にもこちらのモデルでRECした曲があるとのこと。


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